資本主義の次に来る世界「少ない方が豊かである」を読んで
今年の正月はゆっくり時間がとれて、ジェイソン・ヒッケル筆“「資本主義の次に来る世界「少ない方が豊かである」”を読んだ。
選んだ理由は、何でもありの世界、どこか狂っているようだ。資本主義も行き詰まりを期たしている。そういう中で「脱成長論」がヨーロッパで脚光を浴びているとのことを知った。
どういうことなのか知りたい。
以下、私が読んだ私なりのこの本の要約です。
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この本は問題点編と解決策編に分かれている。問題点編では、問題点では気候変動や生物多様性、格差など色々あるが、これらの問題は関連しているので、気候変動に絞って要約する。2015年のパリ協定では地球の平均気温の上昇を2050年までに1.5℃以内にすることで合意できたが、今のままで行くと3.5℃位になる。その理由として大きな問題が2つある。一つは、パリ協定を締結する際にアメリカ等の先進国の合意を得るためにBECCSを達成方策に含めた。BECCSとは、植林等のバイオプランテーションを実施し、成長過程で大気中のCO2を吸収する、成長した後は燃料として燃焼させ発生するCO2を煙突内で回収し地中に埋める方法である。そうすることで、当分は現状の化石燃料を使用しながらCO2を削減することができる。しかし、これを実行するためには膨大プランテーション、インドの面積の2倍から3倍のプランテーションが必要になる。仮にできたとしても農耕地が奪われ、今世紀中半に90億人に到達すると言われる人口を支えられなくなり深刻な食糧不足を引き起こすので、実現性に乏しい。
もう一つは、経済成長至上主義である。国の指導者や企業は、GDPが年2~3%以上成長しなければ、経済が回らないと思いこんでいる。仮に世界のGDPが毎年3%上昇する、複利で計算すると23年毎にGNP規模が倍になる。46年後には、経済規模は今の4倍になるということである。どれだけ削減しても、削減量が増加分に追いつかない。
何故このようなことになるか。この根源は、デカルトの2元論「身体と精神は別のものである」という考え方にある。この考え方によると、人間の体、動物、植物、自然、は“もの”である。人間(の精神)はこれらを支配することができる。デカルトの2元論は、資本主義を実践する上での理論的根拠として利用されてきた。
解決策として、人間は特別な存在ではない。人間は自然の一部であるという考え方(アメニズム)に立ち帰ることが必要である。
具体的にどうするかという点について色々の提言がある。先ずは、プラネタリ・バウンダリンーを考慮する。プラネタリー・バウンダリーとは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、その限界点を表した概念で9つの評価指標がある。これはSDGsの理論的根拠になっている。更に簡単に言えばエコロジカルフットである。人口当たりのバウンダリー(使用できる面積)が、地球の一人当たりバウンダリー(面積)の何倍になっているかで現わす。
国別のエコロジカルフットプリントは、アメリカ:5.1、オーストラリア:4.5、ドイツ:3.0、日本:2.9、イギリス:2.9、中国:2.4、インド:0.7 となっている。
エコロジカルフットプリント1.0以上の国は、今以上に、資源の消費を削減することが必要であるし、1.0以下の国は豊になるために資源の消費を増やすことができる。
一方、これまでの温室効果ガスの排出実績の比率は、アメリカ40%、EU 29%、EU以外のヨーロッパ 13%、日本5%で、その他のグローバルサウスの国は中東を含めても13%である。
以上から見ると、アメリカ、オーストラリア、イギリス、EU、日本の責任が重大であることがわかる。
ここで、アメリカを中心に考えてみる。ある調査によるとアメリカの一人当たりの年収が800万円までは幸福感と年収とは比例するが、800万円を超えると年収と幸福感との相関はなくなる。現在、アメリカの一人当たり年収は1300万円である。それでも人々は一生懸命に働き、企業は成長を目指している。一方、アメリカより所得が低いが平均寿命が長い国や教育レベルが高い国が多数ある。この違いは質の高い公的医療制度と教育システムへの投資に関係している。
高所得国は、国民の幸福度(ウェルビーング)に投資しながら、全体の資源の消費を持続可能なレベルに落とさなければならない。
大量消費を止める非常ブレーキ
1.消費を増やすために計画的に商品の陳腐値する(製品寿命を短くする)ことを止める。
2.不要な消費をあおる広告を止める。
3.所有権から使用権(レンタル・シェアリング)に移行する。
4.食品の廃棄を終わらせる。
5.生態系を破壊する産業(化石燃料産業、牛肉産業)を縮小する。
このようなことを実施すると、仕事がなくなることを心配するかも知れないが、余った時間を余暇やリスキングに振り向ける。そのためには、以下のような社会インフラを整備する必要がある。
・富裕税を投入し不平等をなくする。
・公共財(交通機関や住宅など)を、脱商品化し、コモンズ(公共の富)を拡大する。
・「豊かさ」の実感が成長志向の解毒剤となる
・債務(奨学金や高利の住宅ローン)を帳消しにする。
更に、根本的な問題として、デカルトの2元論的な世界観から自然との一体(アメニズム)に立ち帰ることが必要である。
----------------<ここまでが要約です>----------------------
読後感想
タイトルの「少ない方が豊かである」は、かなりインパクトがあるが、読んでみると内容はそれほど過激な内容ではない。しかし、最初に提起された問題“地球の気温上昇を1.5℃に抑える”という問題が、これで解決するかどうかの説明がないのでわからないが、方向としてはそうだと納得しました。
ヨーロッパでは、このような考え方が主流になりつつあるのだろう。
昨年6月「ダボス会議」を主催する世界経済フォーラムが、脱成長に関する手引き書を発行し、投資関係のリポートにもその引用が顔を出すようになっている、とのことである。
https://www.newsweekjapan.jp/mobile/headlines/business/2022/08/402045_1.php
EUの環境政策「サーキュラーエコノミー」「タクソノミー」「商品へのエコロジカルフットプリントの添付」とも方向が一致している。
しかし、アメリカはこれを受けいれるかどうかは疑問である。こんなことをしたらアメリカンドリームが消えてなくなる。猫の首に誰が鈴をつけるかが問題である。
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