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2016.03.09

社会構造の破壊的イノベーション

 日経エコロジー4月号に 昨年12月のCOP21パリ協定についてのリポート「パリ協定 3つの宿題」の記事が掲載されていた。その感想です。

まず、パリ協定の内容について復習すると、概要は以下のようである。

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1 世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2℃未満」に抑える。
そのための長期目標として、今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、生態系が吸収できる範囲に収める=人間活動による温室効果ガスの排出量を実質的にはゼロにしていくことを意味する。更に1.5℃にする努力をする。
2 各国は、既に国連に提出している2030年に向けての排出量削減目標を5年ごとに見直し再提出する。
3 5年ごとの目標の提出の際には、原則として、各国は、それまでの目標よりも高い目標を掲げること。
4 先進国が途上国へ対策資金を支援する。
5 「損失と被害」が発生してしまった国々への救済の仕組みを整える。
6 各国の削減目標に向けた取り組みを検証する仕組みを整える。
7 技術開発(イノベーション)とその移転などについて長期ビジョンを作成する。
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 COP21でなぜ2℃未満という目標を定めたか。以下は私が調べた理由で、平均気温を2℃未満に抑えることが人類共通の正義であることをCOP21で各国が合意したということでしょう。言うならば地球上の全人類が温暖化防止に向けて時間との戦争状態に入ったということですね。

地球温暖化が進むと、海水が膨張し、また山岳氷河、雪原、氷床などがとけることによって海面水位が上昇する。IPCCの第三次報告によれば、海面水位は20世紀の間にすでに10~20cm(年平均1~2mm)上昇した。
この水位上昇の原因として海水の膨張が約60%、山岳氷河と雪原の融解が約30%、またグリーンランドの氷床の融解(消失)が約10%を占めると考えられている。
地球の平均気温が2℃上昇するということは、北極や南極では、その数倍の温度上昇があり、グリーンランドの氷床や南極の外周の氷床の融解のスイッチが入り1000年かけて徐々に上昇、最終的に7m上昇する。
また。気温上昇が2℃~3℃の間のあるしき値を超えると何かのきっかけで気候変動が自己増幅を始める。
このようなリスクは何としても避けなければならない。


 我が国は、COP21で、国内排出量を2030年までに2013年比26%減の目標を提出している。更に2009年のサミットで2050年までに80%削減することを表明している。
2月26日、環境省の「気候変動長期戦略懇談会」が80%削減の戦略を答申した。これを受けて、3月4日の審議会で、「パリ協定」を踏まえ、温室効果ガスを2050年に80%削減するとした、長期目標を盛り込んだ計画案を正式決定した。
 ⇒ 2016年3月4日NHKのニュース

2030年までの話はさておき、ここでは2050年までの目標の達成方策について考える。

環境省の「気候変動長期戦略懇談会」が80%削減の戦略の内容は下記に公開されている。

⇒ 気候変動長期戦略懇談会

懇談会では、温暖化対策と経済成長を両立させるため、社会構造のイノベーション=技術に加え、社会システム、ライフスタイルを含めた社会構造全体を新しく作り直すような破壊的なイノベーション を提言している。

この根拠となっているのはスウェーデンやベルギーなどの排出量削減と経済成長を両立させている国の社会構造をモデルにしている。
Kikouhenndou01
Kikouhenndou02
       図は気候変動長期戦略懇談会 提言より転載
 
スウェーデンでは、どのように実施しているのかを検索して見ると以下に紹介されていた。

⇒ ストックホルム、グリーン経済の先導的な都市

 スウェーデンでは以前から「2050年までに化石燃料から再生可能エネルギーに100%転換する」を目標に、ゼロ炭素戦略を立て、国、地方、民間がその政策を効果的に実施してきている。
そこには、現状の社会構造にとらわれず、人類の正義を達成すると言った観点からの総合的な計画がある。

懇談会の提言は、簡単に言うと以下のような内容である。
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-解決の方向性-
(1)【経済成長】「グリーン新市場の創造」と「環境価値をテコとした経済の高付加価値化」を通じて、経済成長を実現
(2)【地方創生】再エネなど地域の「自然資本の活用」を通じて、「エネルギー収支の黒字化」等を図り地方創生を後押し
(3)【安全保障】世界の気候変動対策への貢献を通じて、エネルギー安全保障を含めた「気候安全保障」の強化と国益の確保
○このような社会構造のイノベーションの見通しを明確化するためにも、2050年に向けた長期戦略を策定
○同時に、社会構造のイノベーションを後押しするため、上記のような適切な施策を実施

-2050年80%削減の方向性-
○2050年80%、その先の大幅削減を実現するためには、次の3つの取組を並行して進める必要がある
①可能な限りのエネルギー需要を削減する(省エネを進める)
(例)高効率(省エネタイプ)の電気機器・熱利用機器を利用、都市構造の変革等
②エネルギーの低炭素化を進める
(例)電力:再エネ、原子力、CCS付火力等の低炭素電源を9割以上(CO2排出をほぼゼロ) 熱 :バイオマス、地中熱、太陽熱など可能な限り再エネ熱を利用(CO2排出を削減)
③電化を促進する 低炭素電源の拡大や効率的なエネルギーの利用によりCO2をより大きく削減することが可能であるため、熱から電力への転換を促進
(例)ガソリン自動車から電気自動車、暖房・給湯のヒートポンプ利用
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大上段に振りかざした割には、安倍内閣の現在の政策を当て嵌めただけのように見える。
経済産業省の幹部は、この提言を見て「2050年80%削減ありきで技術と対策を積み上げようとしている。2050年80%削減を遂げると、GNPは320兆円に縮小する(現状より35%削減する)」と述べていることが紹介されている。

懇談会は社会構造のイノベーションでGNPが増加すると言っているのに、経済産業省は縮小すると行っている。この両者の違いはどこから出ているか?

気候変動長期戦略懇談会は、社会構造のイノベーションを提言しているが、その具体的なイメージが見えない。
一方、経済産業省は、現在の社会構造システムを変更することなく、省エネを推進することを考えているのではないだろうか。
政府内で考えが共有されていない状態に見える。

現状の社会システムのままで、80%削減すると無理が発生することは何となく分かる。しかし、これは将来の子孫に対する社会的正義であり実施しなければならないことである。

やらされるでは、達成できない。
 社会構造のイノベーションの具体的な姿は?
 社会インフラをどう変えるか?
 どんな事業分野が伸びて、どんな事業分野が縮小するか?
 人々の価値観はどう変わるか?
 世界(先進国、途上国)との関係はどう変わるか?
 ワクワクするような夢ものがたりを書いて欲しい。
国民みんなが、その戦略(方針)・目標を理解して、その方向性に協力していくようにしなければ達成できない。
35年も先のことなので、どのようなイノベーションが起きるか予測がつかないのかも知れませんが、もう少し話題になっても良いような気がする。

今より良くなるという未来が見えないから子どもを産めない。
これは、少子化対策にもつながっている課題だと思います。

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コメント

<追伸>
地球全体の気温上昇を平均2℃未満に抑えるのは、手遅れだと言う意見が相当ある。このことに関して市民のための環境学ガイド「COP21の2℃はターゲットかゴールか それは文化の違い」で解説されている。
目標とはゴールのこと、ラテン系の国ではゴールとは運動会で言うとテープが引いている地点のことで、最大限頑張って走れば、達成しなくても責任は問われない。
2℃以内にすることは正義であるから反対はできない。しかし、達成できるかどどうかは分からない。
パリ協定は、その程度の事だったのかもしれない。
市民のための環境学ガイド↓
http://www.yasuienv.net/GoalTarget.htm

投稿: がまがえる | 2016.03.09 17:46

4月7日日経ビジネスオンラインの関連記事です。
「日本のCO2削減目標は変更もあり得る」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230270/040600012/?P=1

投稿: がまがえる | 2016.04.07 20:01

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