ISO MSSの理解 その1 組織の目的
2012年5月にISO/TMB/JTCGにおいて、今後制定改訂されるISOマネジメント規格は、原則としてJTCGが開発したISO MSSの共通構造、共通テキスト、用語、定義等に従わなければならないことが決定された。
⇒ ISO国内委員会「ISOマネジメントシステム規格の整合化」に関して
内容については、アイソス2012年10月号から12月号にISOTC176委員でテクノファー代表取締役の平林良人氏が紹介している。
今後制定/改定されるISO9001 (品質マネジメントシステム)/ISO14001 (環境マネジメントシステム/ISO22301(事業継続マネジメントシステム)/ISO20121(イベントマネジメントシステム)/ISO39001(道路交通安全マネジメントシステム)/ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)/ISO22000(食品安全マネジメントシステム)/ISO20000(ITサービスマネジメントシステム)/ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)/ISO9100(航空宇宙マネジメントシステム)/ISO55001(アセット(資産)マネジメントシステム)の規格は、この上位テキストに従って制定或いは改定されねばならない。
これらの各ISO規格の章構成が統一されるという点が最も大きな点であるが、その他に以下のような要求事項が追加になっている。
1) 経営戦略とマネジメントシステムの整合
2) ビジネスプロセスへのマネジメントシステム要求事項の統合
3) パフォーマンス評価の実施
1) の経営戦略とマネジメントシステムを整合という点で、MSSには以下のように記述されている。
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4. 組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解(Understanding the organization and its context)
組織は、その目的(purpose)に関連していて、それが、そのXXXマネジメントシステムの意図された結果(複数)を達成するための能力に影響を与える外部および内部の問題を決定しなければならない。
4.2利害関係者のニーズ及び期待の理解
(Understanding the needs and expectations of interested parties)
組織は、次のことを決定しなければならない
✓XXXマネジメントシステムに関連する利害関係者
✓これらの利害関係者の要求事項。
(以下省略)
5. リーダーシップ
5.1 リ一ダーシップ及びコミットメント(Leadership and commitment)
トップマネジメントは、次の事項によって、XXXマネジメントシステムに関してリーダーシップとコミットメントを実証しなければならない。
✓XXX方針とXXX目標(objectives)が確立されることを確実にし、組織の戦略的方向性と両立することを確実にする
✓組織のビジネスプロセスへのXXXマネジメントシステム要求事項への統合を確実にする
(以下省略)
注記)
この国際標準で "ビジネス"という場合、それは組織の存在の目的(purpose)の中核となる活動という公義の意味で解釈することが望ましい。
6 計画(Planning)
6.1リスク及び機会への取組み( Actions to address risks and opportunities)
XXXのマネジメントシステムを計画する際、組織は、4.1で言及の問題と4.2にいう要件を考慮し、に対処する必要があるリスクと機会を決定しなければならない
マネジメントシステムは、その意図する成果(複数)を達成することを確実にすること
✓望ましくない効果を予防または軽減すること
✓継続的な改善を実現すること
組織は、次のことを計画しなければならない:
a)これらのリスクと機会に対処する行動をとること
b)以下の方法を決定すること
✓これらの取り組みのXXXマネジメントシステムのプロセスへの統合及び実施
✓これらの処置の有効性を評価すること
6.2 XXX目的及びそれを達成するための計画策定
以下省略
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昨年8月、ある会社より、ISO9001/ISO14001統合マネジメントシステム認証取得のコンサルティングの依頼を受けた。将来のことを考慮して統合マネジメントシステムのフレームワークとしてISO MSSを使用することとした。
ISO MSS読んでみて、特に以下の点が分からなかった。
①「組織及びその状況の理解」とは何を書くのか。
② その中で要求されている、組織の目的(purpose)とは何か。
③ 「利害関係者のニーズ及び期待の理解」はISO26000と どのように繋がっているか。
④ 「リスク及び機会への取組み」とは、どのようなことを書くか。
⑤ 「ビジネスプロセスへのマネジメントシステム要求事項への統合」はどのように行うか。
という点である。
以上の点について、私なりに勉強してみたことを4回に分けて紹介します。
今回は「組織及びその状況の理解」という点の紹介で、次回のブログでは「ビジネスプロセスへのマネジメントシステム要求事項の統合」について紹介します。
ISO MSS 4.1章、5.1章に出てくる組織の目的(purpose)という用語について、平林先生は、ドラッカーの著書に出てくる「顧客の創造」であると言っておられる。
そこで、ドラッカーの著書「マネジメント」を読み直して、自分流にメモしてみた。
=================以下は、そのメモです===========================
Pert1 マネジメントの使命
マネジメントには、次の3つの役割がある
・自らの使命を果たす
・仕事を通じて働く人を活かす
・自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。
【役割Ⅰ 自らの使命を果たす】
■企業の目的は「顧客の創造」である。顧客を想像するには「マーケティング」と「イノベーション」の機能が必要である。
マーケティングとは、顧客が価値ありとし、必要とし、満足を問う。
イノベーションとは、人的資源や物的資源に対して、より大きな富を生み出す新らしい能力をもたらすことである。
企業の管理的な機能
顧客の創造達するためには、富を生むべき資源を活用しなければならない。資源を生産的に使用する。すなわち生産性の向上である。
生産性に重大な影響を及ぼす要因には以下のものがある。
① 知識
② 時間
③ 製品の組み合せ
④ プロセスの組み合せ
⑤ 自らの強み
⑥ 組織構造の適切さ、及び活動期間のバランス
■企業の目的を明確にする手順
1)事業は何かを定義する
・ドメイン
・顧客は誰か
・何を買うか
・我々の事業は何であるべきか(社会、経済、市場の変化への対応)
・我々の事業のうち何を捨てるか
2)事業の目標を設定する
・マーケティングの目標
・イノベーションの目標
・経営資源の獲得に関わる目標
・生産性の目標
・社会的責任の目標
3)戦略計画を作る
リスクを伴う起業家的な意思決定を行い、その実行に必要な活動を体系的に組織し、それらの活動の成果を期待したものと比較測定するという 連続したプロセスである。
【役割Ⅱ 仕事を通じて働く人を活かす】
1)仕事を生産的なものにする
① 仕事に必要な作業と手順を分析する
② 作業を集めプロセスとして編成する
③ 仕事のプロセスの中に管理手段を組み込む
2)誰もがマネジメントの一員とみなす組織を作り上げる
① 仕事と職場に対して、成果と責任を組み込む
② 供に働く人たちを生かすべきものとしてとらえる
③ 強みが成果に結び付くような人を配置する
【役割Ⅲ 社会的責任】
社会的責任は、社会が要求しているから行うものではない。現在社会においてはマネジメント以外に企業に関わる社会的問題を解決するリーダー的な階層がいないからである。
1)自らが社会に与える影響への責任
事業に伴う社会的影響の中身(例えば、社会問題や環境問題)を明らかにし、悪影響を最小限にする。できればなくする。
2)自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる課題に対する責任
社会の問題の解決を事業上の機会に転換(イノベーション)する。戦略的CSR。
Pert2 マネジメントの戦略
1.トップマネジメント
トップマネジメント(トップマネジメントチーム)には次の役割がある
①事業の目的を考える
「我々の事業は何か。何であるべきか」を考える。この役割から、目標の設定、戦略計画の作成、意思決定という役割が派生する。
②事業全体の規範を定める。
目標と実績の違いに取り組む。ビジョン価値基準を設定する
③組織を作り上げ維持する。
④顧客、取引先、金融機関、政府機関等の渉外
⑤地域等との儀礼的な役割
⑥重大な危機に対しては自ら出動する。
2.取締役会
取締役会には次の役割がある
①トップマネジメントに助言し、忠告し、相談相手になる
②成果をあげられないトップマネジメントを交代させる
③渉外
3.マネージャー
マネージャーとは、組織の成果に責任をもつものであり、次の役割がある。
①投入した資源の総和より大きなものを生み出す生産体を創造する
②決定と行動において、直ちに必要なものと、遠い将来に必要なものを調和させていく。
マネージャーには、次の仕事がある。
① 目標を設定する
② 組織する
③ 動機づけとコミュニケーションを図る
④ 評価測定する
⑤ 人材を開発する
4.コミュニケーション
組織においてコミュニケーションは単なる手段ではなく、組織の在り方である。
コミュニケーションとは、知覚あり、期待であり、要求であり、情報ではない。
目標管理がコミュニケ-ションの前提となる。
コミュニケーションは、上から下へ、下から上へ 双方向に行う。
5.管理
管理のために測定を行う時、測定される対象も測定する者も変化する。管理手段は純客観的でも純中立的でもあり得ない。
管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。
6.規模の戦略
規模の誤りは組織の体力を消耗させる。規模について最大の問題は地域社会に比較して大きすぎて行動の自由が制約されることである。適正規模にマネジメントすべきでる。
■小企業のマネジメント
小企業は戦略を必要とする。ニッチを見つけなければならない。
① 小企業のマネジメントに必要とされることは「我々の事業は何であるか、何であるべきか」を問い、答える。
② トップマネジメントの役割を組織化する。
■中企業のマネジメント
ここでいう中企業とは特定の分野においてリーダー的な地位にある企業である。
中企業は大企業と小企業双方の利点に恵まれている。誰もがお互いを知っており、容易に協力できる。チームワークは努力しなくてもひとりでに生まれる。誰もが自らの仕事が何であり、期待される貢献が何であるかを知っている。卓越性のある分野では、あたかも大企業であるかのごとく行動できる。
中企業では持てる資源の全てを成功の鍵となっている分野に集中する。そうでない分野には最小限のことしか行うべきでない。
■大企業のマネジメント
ここでいう大企業とは、トップマネジメントの人間が自社の中心的な人間を個人的に知ることができない企業である。
大企業はフォーマルな組織構造を適切に作り上げねばならない。その組織は明快でなければならない。全員が目標、優先順位、戦略を理解していなければならない。組織内における自らの位置と他の人間との関係をしらなければならない。さもなければ、大企業病に陥る。
原則として、小さな事業、成功しても中くらいの事業にしか育ちそうもないものには手を出さない。
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以上の点を踏まえて、「4.1組織及びその状況の理解」に関する記述例が
ISO編集「ISOマネジメントシステムの統合的な利用」16~21ページに載っている。
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JimtheBakerは,小さな町のセンターでべ一カリーを営んでいる,ジムは,6年前に自前でその店を開業し,徐々に拡大してきた。現在,5名の従業員を雇い,事業は非常に順調である。
ジムの成功は,体系的に組織を管理するためのいくつかの基本原則を適用してきたおかげであるが,実のところ本人はそのことに気づいていない。たとえば,彼がベーカリーを始めたとき,事業の目的は焼きたてのべ一カリー製品を提供することであり,パンやペストリーを直接顧客に販売するだけでなく,スーパーマーケットにも販売することを計画的に考えていた。
彼は,近隣の多くの人々と話をした結果,そのように行動した(市場分析)、べ一カリーで焼きたてを買うことを好む人もいる一方で1か所のスーパーマーケットなどですべての買い物を済ませたいけれども焼きたてのパンや"本物"のペストリーも欲しいと考えている人もいる。お客のニーズをこのように明確にしたうえで,ジムは,いくつかの目標を定め,その目標が達成できかつクライアントの満足を得られるように,どのようにべ一カリーを組織するかを上手に計画した.これが,べ一カリーとしての彼の成功と成長の基盤となった。
ジムの目的:
快適で実り多い人生を送ること,町一番のパンとドーナッツを作ること,顧客を満足させ,決して自分やスタッフに苦情を申し立てることのないようにすること,スタッフの幸福を追求し,不満のないようにすること,故障しない優れた機器を導入すること,そして楽しむこと!
ジムの戦略
顧客戦略:便利な場所で質の高い製品を提供する,
人材戦略:地元の住人を雇い,昇進の機会を与える.
サプライヤー戦略:優秀なサプライヤーと提携する.
マーケティング戦略:健康面に配慮した選択肢と民族的好み,いわゆるエスニックの多様性を提供する.
ジムの目標:
1. 変化に富んだ焼きたてのパンやペストリーを便利な場所で提供する。
2 .従業員退職率の低い,熟達した労働力を開発する。
3 .季節ことの計画と顧客からのフィードバックでサプライヤーと協力する。
4 .新規出店によって地域を拡大する。
5. マーケティング戦略:スーパーマーケットのチェーンに売り込む。
6. 該当するすべての規制を守り,顧客要求に適合させる。
7. 2年間で売上を50%伸ばす。
8. 品質を損なうことなく,コストを10%削減する。
JimtheBakerが製パン業に関係したデータを分析すれば、ジムは需要と供給、競合、原料及び労働力の入手可能性と市場トレンドを見通せるようになる。
この分析によって,ジムは次のようなことを把握するだろう。
■製造と消費の傾向(需要と供給である場合が多い)
■市場価格
■競合者(数と規模,場所,密度)
■サプライヤー(数と規模,場所,密度)
■ステークホルダー
■たとえば価格,製品の品質,多様性といった顧客のニーズと期待
■市場への出荷方法と出荷量
■市場で期待される特質と品質レベル
■資源
■製品の特徴
■ネットワーク化と協力の可能性
■新規ビジネス市場を見いだす能力
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