QMSの有効性の内部監査
昨年9月に“「有効性監査」ができる内部監査員を養成する”というブログを書きました。
お陰さまで、その後有効性監査に関する内部監査員教育を10社程度お手伝いさせていただきました。
ここでは、“品質マネジメントシステムの有効性“と言う点に絞って、その後感じたことを付け加えさせていただきます。
1.QMSの有効性とは
QMSの有効性については、IAF審査実施グループ(APG)が、冒頭APG002の論考の中で取り上げています。
しかし、JABのAPG審査の最適実施要領の翻訳には、パワーポイント資料であることを理由に翻訳されていません。
色々探してみるとIRCAの翻訳集APG002の中にある。
これを読んでいただくと、ISO9001のQMSモデルは、マルコム・ボールドリッチ賞を始めとしたナショナル・ビジネス・エクセレント・モデルをベースとし、「リーダーシップ」のカテゴリーを「経営者の責任」と「資源の運用管理」に分けたものであることが分かります。
ISO9000のモデルは、有効性と改善は、QMS の各部分をデータの分析に使用し、次に継続的改善を確実にするための変化とイニシアチブを方向付けるという、一つの循環プロセスとなっています。
この論考の中に、有効性についての例が載っています。
「ある会社が数項目の品質目標を明確にし、これらの目標に関する実績を表すデータを収集した。ギャップ分析の技法を使用して、実績を目標と比較し、当該時期におけるQMS の有効性を決定した。同じデータを使用して、組織は、改善を測定することもでき、更に、この情報と結果に基づき必要な処置を取ることができる。」
ここでは例として以下のような目標を設定し実績とのギャップを確認している
<目標> <実績>
・顧客要求事項 ⇔ 顧客満足
・法規上の要求事項 ⇔ 法規制適合
・不良品率・クレーム ⇔ 品質システムの測定事項
・製品の品質保証 ⇔ 検品とテスト
・購買品質 ⇔ 供給者のパフォーマンス
なお、これらの目標指標は、日本のナショナル・ビジネス・エクセレント・モデルである日本経営品質賞のアセスメント基準書の場合は「顧客満足・不満足の結果」「社員満足・不満足の結果」「財務の結果」「リーダーシップと社会的責任の結果」「個人と組織の能力向上の結果」「プロセスの結果」となっています。
ここで、目標とのギャップが少ないときは有効性が高い状態であり、ギャップが大きいときは有効性が欠如している時である。
目標とのギャップが大きいときは、その原因を分析しマネジメントレビューに提起する。
マネジメントレビューでは、これらの目標とのギャップだけではなく、企業の組織・事業・財務目標に対するパフォーマンスの測定結果も考慮して、次の年度の方法づけをおこなう
このようなパフォーマンスの指標としては以下のようなものがある。
• 財務指標
• 組織全体を通じたプロセスのパフォーマンス指標
• ベンチマーキングや第三者評価などの外部指標
• 製品のパフォーマンスに関する顧客の評価
• 経営者が特定したその他の成功要因の測定
• 顧客、組織内の人員の満足度測定
ここまでのところは、私の先のブログ「現状打破・経営革新&課題達成型QCストーリー」の中の経営品質向上のステップと基本的に同じです。
2.有効性の内部監査
ギャップ分析のその次のステップは有効性の継続的改善です。有効性の継続的改善のステップでは、目標と実績のギャップの大きい製品・プロセス・サービスについて数値目標を設定して改善していく。この目標は通常、年度ごとの部門目標となっていると思います。
内部監査における有効性監査とは、この部門目標の設定と改善活動(PDCA)が適切行われているかを監査することになる。
設定された部門目標は、業種や業務特性によって特徴があり、私の経験では以下のようになっているように思います。
(1) 設計部門
顧客の要求する機能を製造や使用の段階で予測されるトラブルを的確に予測してミスなく設計すること(このことを目的とした設計目標又は数値目標)。
(2) 製造部門
不良・クレーム・コスト・納期などを改善すること(このことを目的とした数値目標)。
(3) サービス部門
顧客が望んでいるサービスを「安全に」「楽しく」「迅速に」「タイムリーに」提供すること(このことを目的とした数値目標)。
では、このような場合に、どのようにして有効性監査を進めたらよいでしょうか。
第15回JAB公開討論会 WG2のパワーポイント資料、17ページから22ページに、その具体的実施例が載っています。
パワーポイント資料の事例1は自動車会社の設計開発プロセスの例で、この監査事例は(1)の設計・開発部門の有効性監査の主旨にあっており、参考になります。
事例2は電子部品の製造不良の例ですが、いささか異論があります。
TQMでいう方針管理と日常管理の手順の中で、製造業において、不良を減らすときは問題解決型QCストーリーを使う。
方針管理における改善のステップは
傾向分析(パレート図)
↓
上位項目を取り上げ、低減目標を設定する
↓
重要な要因の設定(特性要因図を用いて仮説を設定する)
↓
改善案の立案と実施
↓
効果の確認(グラフ等で見える化)
↓
標準化と残された課題
と言うステップを辿る。
ところが、この事例では、被監査側に、こういう考え方がない。先ずこのことを真っ先に指導すべきと思います。ところが、このことを指摘しないで、アウトプット・インプット・プロセスの要因を確認し問題を指摘するようになっていて、これで良くなるのだろうか疑問に思います。
私が今月訪問した企業様も同じ状況でしたので、有効性監査をする以前の問題として先に「継続的改善ステップのしかけを作ること」を提案しました。
但し、この提案はサービス業務でもうまく行くかどうか分かりません。
その理由は、飯塚先生の下記の動画をご覧になってください。
⇒ 製造業のQCをそのまま、サービス業にもと込んでもうまくいかない
事例3は、サービス業、医療現場の事例ですが、この事例もいささか異論があります。
ここでは部門目標として、与薬ミスを設定しています。この事例でも被監査側に投薬ミスの目標値を達成しようとする科学的アプローチが何もないのに、これを放置して、アウトプット・インプット・プロセスの要因を確認し問題を指摘するように監査を実施している。その前に被監査側に与薬ミスを減らす科学的方法を指導すべきでしょう。
この方法は、私の下記ホームページや、飯塚先生の動画でも紹介されています。
⇒ 医療のリスクマネジメント
⇒ 医療に品質管理手法を導入
なお、上記手法は、医療に限らす、どのような業種においてもヒューマンエラーを防止する時には同じようなアプローチとなります。
その内容は、私の先に書いたブログ“ケアレスミスを減らすには”で紹介していますので、参照下さい。
<2010年11月20日追記>
最近気がついたのですが、3月15日に開催された2010年度JAB公開討論会、WG3の報告の中に「内部監査における有効性監査の事例」が載っています。
この事例は大変よいと思いますので、是非目を通して下さい。
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