環境ISOの有効性の内部監査
先のブログ「有効性監査ができる内部監査員を養成する」では主としてISO9001品質マネジメントシステムの内部監査で有効性監査を行うにはどうすればよいかを述べました。
しかし、環境マネジメントシステム(EMS)については触れていませんので、EMSの有効性監査について考えてみたいと思います。
ISO14001には、規格本文の中にはISO9001のように「マネジメントシステムの有効性を継続的に改善する」という表現はありません。
┌―――――――――<ここから括弧内は規格書の引用です>―――――――――┑
ISO14001 1.適用範囲
この規格は、組織が法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面についての情報を考慮に入れた方針及び目的を策定し、実施することができるように、環境マネジメントシステムの要求事項を規定する。
ISO14001 4.1 一般要求事項
組織はこの規格の要求事項に従って、環境マネジメントシステム(EMS)確立し、継続的に改善し、どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること。
└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――┚
4.1 一般要求事項が正しくできていれば、有効性のあるEMSと言うことになるのであろう。
この文中の「継続的に改善」するという意味は用語の定義で以下のように規定されている。
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3.2 継続的改善
組織の環境方針と整合して全体的な環境パフォーマンス(3.10 組織の環境側面についての組織のマネジメントの測定可能な結果)の改善を達成するためにEMSを向上させる繰り返しのプロセス。
└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――┚
では「どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること」とはどういう意味かというと、JISQ14001:2004 付録1 要求事項及び利用の手引き に次のように補足されている。
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――┑
4.適用範囲
この規格は、組織が定めた適用範囲内の環境側面に適用されるわけであるが、この環境側面のとらえ方や組織の自由裁量に任されている部分のとらえ方によっては、マネジメントによる効果は大いに異なってくる。
b)自由裁量の明確化と決定
”管理できる環境側面及び影響を及ぼすことができる環境側面”の後半部分(影響を及ぼすことができる環境側面)が自由裁量事項に相当する。一般要求事項の中では、特にこのような部分に対して”どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること”として、どの範囲で管理するかの決定を要求している。この点をよく認識して頂きたい。
自由裁量の範囲設定は、マネジメントシステムの実質効果と密接に関連する。従って、効果を期待するならば、極力自由裁量の範囲を大きくとるということが意図されていると考えてよい。
└―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――┚
これらを総合的に考えると、EMSの有効性とは
「環境法規制等の要求事項及び本業の環境側面がその組織に合ったように適切にとらえられていて、かつ、それらが環境方針と整合し、環境パフォーマンスの改善が達成されるようにEMSが向上していること」
ととらえることができる。
有効性監査の定義は、平成20年7月29日に経済産業省が発表した「マネジメントシステム規格認証制度の信頼性確保のためのガイドライン」でも、「規格適合性だけでなく、規格がシステムとして有効に機能しているかどうかを、パフォーマンスが向上しているかどうかで判断する監査のこと」と記述されており、この定義は環境ISOにも適用される。
品質ISOの有効性監査では、「“マネジメントシステムの有効性”を検証するため,アウトプットに着目し,“結果”または“実施された程度(パフォーマンス)” が目標又は期待された結果を生み出すようになっているかどうかを判定し、改善の機会を提供する監査。」と定義していました。この微妙な違いはISO9001と他の規格との構造の違いからくるものと思います。
では、環境パフォーマンスが向上しているとはどういうことかを考えてみる。
ISO14031「環境パフォーマンス評価―ガイドライン」では、環境パフォーマンスの適用方法の指針が定められている。また、環境省からは「環境報告ガイドライン」第3章環境報告における個別の情報・指標で、そのガイドラインが発表されている。
環境パフォーマンス指標には結果のパフォーマンス指標(MPI)と、プロセスのパフォーマンス(OPI)がある。
結果のパフォーマンス指標(MPI)は、組織の全体的なマテリアルフローをベースにしており、そのコア指標としては
インプット
① 総エネルギー投入量
② 総物質投入量
③ 水資源投入量
アウトプット
④ 温室効果ガス排出量
⑤ 化学物質排出・移動量
⑥ 総製品生産量又は総製品販売量
⑦ 廃棄物等総排出量
⑧ 廃棄物最終処分量
⑨ 総排水量
といった指標がある。
プロセスのパフォーマンス(OPI)は、業種や環境方針によって違ってくるが、例としては次のようなものがある。
・従業員一人当たりの環境教育の時間
・環境に配慮した設計がされた製品又はサービスの数
・主要製品のライフサイクル全体からの環境負荷の分析評価(LCA)の結果
・環境目的・目標の数と時間内に実施されて件数
・環境配慮型製品・サービス等の購入量又は金額
・自社を選んだ一つとして環境を挙げた新規顧客の数
・地域や協力企業に対する環境教育のプログラムの実施回数・参加人数
・地域社会と協力して実施した環境・社会的活動の回数・参加人数
・環境に関する規制に対する違反件数、事故件数
各企業は上の例のように自分の組織にあった環境パフォーマンス指標を創造して使用することが必要です。
なお、環境パフォーマンスの使用について誤解がないように、申し添えると
ISO14001 1.適用範囲 の最終パラグラフでは「この規格自体は、特定の環境パフォーマンス基準には言及しない」と述べられているが、
ISO140014.6 マネジメントレビューへのインプットには、c)環境パフォーマンス を含むことを要求している。
これは、EMASのように環境パフォーマンスの絶対的な向上を目的とするものではなく、しくみの向上を要求事項として、結果的に環境パフォーマンスが向上することを目的としているという意味であろう。
まとめ
EMSの有効性とは「環境法規制等の要求事項及び本来業務の環境側面がその組織に合ったように適切にとらえられていて、かつ、それらが環境方針と整合し、環境パフォーマンスの改善が達成されるようにEMSが継続的に向上していること」であり、EMSの有効性監査では、環境管理責任者及び部門ごとに、以下の点につて確認し「改善の機会」を提供する。
<確認項目>
① 本業の環境側面が適切にとえられているか。
② 環境側面及び環境方針と整合して、組織の全体又は部門ごとに環境パフォーマンス指標が設定されているか。
③ 結果として、環境パフォーマンスが向上しているか。
④ その中で改善が可能であるものは、環境目的の指標となっているか。
⑤ 各部門及び階層で、環境方針・環境目標と整合して数値的な環境目標が設定され、改善活動が実施され、達成できそうにない場合は、その原因が分析されしくみの是正処置が行われているか。
⑥ 社員の環境意識は高いか、改善に必要な専門教育が行われているか。
⑦ 組織内に環境法規制等の要求事項の意味がよく理解さて順守されているか。
①②は、環境パフォーマンス指標が適切に設定されているかを確認するもの。
③環境パフォーマンスの改善の結果。
④~⑦は、③の結果が悪い場合に、どこに問題があるかをみるものです。
<2009年10月追記>
2009年9月にISO及びIAF共同コミュニケ「ISO 14001 への認定された認証に対して期待される成果(利害関係者の視点から)」が発行されました。
この共同コミュニケでは、以下のように述べています。
「定められた認証範囲について、認証を受けた環境マネジメントシステムがある組織は、環境との相互作用を管理しており、以下の事項に対するコミットメントを実証している。
A. 汚染の予防。
B. 適用可能な法的及びその他の要求事項を満たしていること。
C. 環境パフォーマンス全体の改善を達成するために環境マネジメントシステムを継続的に強化していること。」
この内容を平たく言いうと、以下のようになります。
A.汚染の予防
環境上の汚染物質又は廃棄物の発生、排出、放出を回避し、低減し、管理するため、経済的に実行可能で費用対効果があり、且つ最良利用可能なプロセス、操作、技法、材料、製品、サービス又はエネルギーを使用しているか?
B. 適用可能な法的及びその他の要求事項を満たしたいるか。
環境コンプライアンスに関するリスクは管理されているか?
C. 環境パフォーマンス全体の改善を達成するために環境マネジメントシステムを継続的に強化しているか。
組織の環境パフォーマンス指標が適切に設定され継続的に向上しているか? 本業と一体化した活動が実施されているか?
以上の3点を監査することが、環境ISOの有効性の監査であるとも言えます。
2009年8月10日記載の上記のブログは、共同コミュニケの A、B、C の中で、AとCに焦点を当てたものです。
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