ISO9001 8.2.3 プロセスの監視及び測定
先のブログ「ISO2008:2008年改訂」では、ISO9001:2008規格要求事項の冒頭で
「 4.1 一般
組織は、この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ、維持しなければならない。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善しなければならない。
組織は次の事項を実施しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にする。
b) これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする。
c) これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要な判断基準及び方法を明確にする。
d) これらのプロセスの運用及び監視の支援をするために必要な資源及び情報を利用できる。
e) これらのプロセスを監視し、適用可能な場合には測定し、分析する。
f) これらのプロセスについて、計画どおりの結果が得られるように、かつ、継続的改善を達成するために必要な処置をとる。」
と記述されているが、2000年版では、この a)~e) の意味がよく理解されていない会社が多い。特に、a)~b) の意味を説明した。
また、「8.2.3 プロセスの監視及び測定」では
「組織は、品質マネジメントシステムのプロセスを監視、及び適用可能な場合に行う測定には、適切な方法を適用しなければならない。」
と記述されているが、これは、“4.1 c) これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要は判断基準及び方法を明確にする。”を受けている、と説明した。
ところで、プロセスの監視及び適用可能な場合に行う測定とは、どんなことを言うのであろうか。
BSI Transition to ISO9001:2001 には、次のようなプロセスの監視/測定の例が載っている。
・QMSで直接監視/測定できるプロセス。
例えば、時間、温度、頻度、応答及び処理時間。
・直接測定できる特性を持っていないプロセスで製品の測定結果を利用して監視できるもの
・トレンドを見極め、計画どおりの結果を達成できるプロセスの能力を確認するため、内部監査及び顧客満足度測定の結果を利用して、もっと適切に監視されるプロセス
このようなそれぞれのQMS・プロセスについて、監視・測定の責任を明確にし、監視・測定のパラメータについて効果的な実施を確実にする。
また、ISO9004では、プロセスのパフォーマンス測定として、上記に加えて算出高、効率、技術の活用、ムダ、コストなどが追加になっている。
ISO9001:2008年版では、8.2.3 プロセスの監視及び測定の条項に次の注記が追加された。
「注記 適切な方法を決定するとき、組織は製品要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性への影響に応じて、個々のプロセスに対する適切な監視又は測定の方式及び程度を考慮することを推奨する。」
品質マネジメントシステムの有効性とは“組織が設定した方針・目標の達成に向けてシステムが効果的に機能しているかどうか”ということであるから、ここの意味は、「製品の品質及び、会社が設定した方針・目標の達成に向けてシステムが効果的に機能するためのユニットプロセスを重点的に監視・測定する」「そのための方式を決定し実施する」という意味でもある。
どのプロセスを重点的に監視・測定するか、その方式・程度とは??
ここの部分は経営品質賞の基準で考えると分かりやすい。
(私は数年前にアセッサー研修で習ったのですが、今その結びつきに気が付きました。)
経営品質では、経営品質アセッサーは企業を見る重要な観点を、次の5つより絞り込んでいく。
・事業ドメイン
・業界特性【マイケル・ポーターの(自社・新規参入者・売り手・買い手・代替え品)の5つの競争要因】
・市場・業界内でのプロポーション(リーダー戦略、チェレンジャー戦略・フォローワー戦略・ニッチャー戦略)
・バリュープロポーション
・価値前提
・業種、規模
である。
特にこの中で「バリュープロポーション」が大切である。
マイケル・トレーシー著 「ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング」 では、マーケット・リーダーと呼ばれる企業80社を調査し、そして共通する強さの秘密を解き明かしている。
これらの企業には、三つのきわだった価値基準があるといいます。
1 経営実務面での卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)
2 製品のリーダーシップ(プロダクトリーダーシップ)
3 顧客との親密性強化(カスタマー・インティマシー)
このいずれか、あるいはいくつかが複合されたものです。
先ず、最初の「経営実務面での卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)」についてですが、これを経営理念とする企業は製品面、サービス業の革新者として目立っているわけではありません。顧客との一対一の深い関係を作り上げているわけでもありません。最終需要者までの一貫した製品供給のプロセスと、コストと手間隙のわずらわしさを最小限にするように合理化された基本的サービスを提供する。無駄を嫌い、効率を重んずる社風となる。
管理基準は中央で練られることが多く、標準化、簡素化が徹底し、管理が厳しく、一般従業員に決定の委ねられる余地が余りない。一貫性のある、信頼できる、高スピードの取引と標準順守の姿勢に焦点を当てた管理システムとなる。
たとえば、マクドナルド、デル、ウォルマートのような会社です。日本でいえば吉野家です。
数年前ですが、吉野家では、顧客を忙しいビジネスマンのような人に絞って、美味くて安い牛丼を提供する、そのため顧客と対話をなるべくしない。スタッフは店に入ったお客さんには「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」としか言わない。その分、店内の回転率が上がりコスト下がる、という話を聞いたことがあります。
このような会社の重要プロセス(キープロセス)は、製造・サービス提供・プロセスの設計・開発です。
2番目の「製品のリーダーシップ」は
新しい製品の発明や開発で顧客に革新的はイメージを与える会社です。
例えば、ソニー(但し数年前の)やインテル、3Mのような会社です。
ビジネス構造はゆるい編成で、問題別に特別班をつくり、かついつでも変更可能な体制に。未開拓の分野での仕事に必要な起業家的イニシアティブや方向転換にあわせる。結果重視で、新製品の成功を正当に評価して、それに十分の報酬を与えるとともに、そこに到達する為に必要な実験を罰しない。社風は個人の想像力、才能、型にはまらない思考、将来を創造したいと言う欲求にかられた心構えを刺激、育成するものにする。
ここでの、重要プロセス(キープロセス)は、設計・開発、研究・開発です。
3番目の「密接な顧客関係(カスタマー・インティマシー)」は
顧客に何が今本当に必要なのかをわからせるよう手助けをし、解決策がうまく実行されるように見守ることを徹底的に行う会社です。ビジネス構造は、決定権限を顧客に密着している従業員に委任する形になっている。管理システムは慎重に選り抜かれ、十分に手なづけた顧客に良い結果が生まれてくるよう舵取りできるものにする。社風は一般的解決策より個別、具体的な解決策を重んじ、強くて長続きできる顧客リレーションシップを繁栄の基礎とする。
例えば、リッツカールトンホテルやデェーズニーランドのような会社です、
ここでの、重要プロセス(キープロセス)は、顧客との信頼関係の構築、組織的能力向上です。
プロセスの監視/測定は、このような重要プロセス(キープロセス)に対して重点的に行わなければならない。そうしなければ、顧客に付加価値を与え、企業が持続的に発展していくことはできません。
自分の会社が、経営実務面での卓越性、製品のリーダーシップ、顧客との親密性強化 のいずれに該当するかというのは、基本理念(又はビジョン)や方針に示されている。
そこから判断すると、どのプロセスの監視/測定を重点的に行う必要があるか分かると思います。
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