« 意識改革の進め方 | トップページ | 現状打破・経営革新&課題達成型QCストーリー »

2008.11.23

ISO9001:2008年改訂(2)

 ISO9001:2000規格が11月15日に改訂されISO9001:2008規格となった。ISO品質審査員資格を維持すためには規格改定コースを受講することが義務付けられていることもあり、11月21日大阪江坂のグローバルテクノ社で加藤重信氏の解説セミナーを受講した。
加藤氏は1994年版からISO TC176日本代表委員としてISO9001規格の改定作業に携わってこられた。2年前からは日本代表員を降りられたが、現在は国の代表ではなく専門家の立場でTC176に参加されている。

 今回の規格の要求事項は変更されていないが、ISO9001:2000版の意味不明の箇所を明確になるよう字句の修正や、注釈が追加になった。
正確にいえば、これらの改定で実質的には若干要求事項が追加になっている。しかし、これらの変更はわずかである。
大きなポイントは、世界的な傾向としてISO9001:2000年移行時に間違った解釈で品質マネジメントシステムを構築し、認証機関も間違った解釈で認証を与えてきたケースが多々ある。これらの間違った解釈をしてきた組織はISO9001:2008年版移行に際してシステムの見直しが必要になる、ということである。

2008年版の変更点及び移行措置については、次の文書がネット上に公開されているので参照ください。
日本適合性認定協会JABより
 「ISO 9001:2008への移行に係るISO-IAF共同コミュニケの発表について」
日本規格協会のホームページでの平林良人氏の解説
 「ISO9001:2008 追補改正版の発行について」

改定の詳細については、規格を見て頂きたいが、ここではISO9001:2000版で意味をとり違えている点を中心に説明する。

1. 品質マネジメントシステムの構築の意味
 ISO9001は品質マネジメントシステムで、システム要求事項を満たしていれば認証されます。しかし、要求事項を満たしているが「その組織からでる製品はガラクタのようなもの、世間からも非難を浴びている=製品の要求事項を十分に満たしていない」場合があるという指摘です。
最近日本の経済産業省からもこの点に関して認証機関に対して強い警告を出している。
 ISO9001 1.1 a) には、「この規格は顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たした製品を一貫して提供する能力を持つことを実証する必要がある場合」と記載されているが、「適合した製品を一貫して完成させる」という要求事項は、規格の本文では「QMSの有効性」という言葉に変わっているので、規格の使用者に的確に伝わっていない。
このような会社に認証を与えることは、基本的に間違いである。そのために"Output Matters"という言葉の導入が提案された。"Output Matters"とは、「要求事項を満たした製品を一貫して提供し、顧客満足を向上させるためのもの」という意味である。
しかし、これを要求事項にすることは2000年版と要求事項を変更しないという改定基準に違反するので、本分への記載は次回改訂に回し、字句や注釈が追加された。

(1)序文
 0.2 プロセスアプローチの説明 中程字句追加
 「 ・・・・・。
  組織内において、期待される結果を生み出すために、プロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理することと併せて、一連のプロセスをシステムとして適用すること。」
 即ち、結果を期待しないプロセス、期待される結果を生み出さないプロセスはどこかに問題がある。

 弊事務所の参考ブログ:プロセスアプローチのやさしい説明

(2)4.1 一般要求事項 
  4.1一般要求事項では、組織は品質マネジメントシステムを確立すること。そのためにa)~f)を実施することを要求している。
ISO9001は「顧客の要求を満たすための品質保証のためのマネジマントシステム」である。そのやり方は、業種、組織のおかれている状況、規模、経営者の考え方によって異なる。
 日本国内認証機関関連のコンサル会社の指導を受けた多くの会社では、品質マニュアルを規格項目順に記載している。欧米では、そんなことは考えられない。
別の見方をすると、品質マニュアルを規格項目順に記載しているということは、そのマニュアルは審査員のために作成されてもので、自社の品質マネジメントシステムを記載したものではない、と受け取られる。
このような組織は、規格項目順ではなく、自社のための品質マニュアルに変更することが推奨される。
 なお、弊事務所でも品質マニュアルのサンプルをネット上に公開しているが、この原本は英国のコンサル機関の流れを受け継ぐもので、ISO9001:1994年版より一貫して組織のプロセスに従った品質マニュアル作りをコンサルしており、規格条項通りの品質マニュアルを指導したことはありません。

(3)4.1 一般要求事項 a)項
 「a) 品質マネジマントシステムに必要なプロセス及び、それらの組織への適用を明確にする。」の[明確にする]の英文がindentifyからdetermineに変更された。」
ここでいう「明確にする」とは、ユニットプロセス=業務を明確にする。そして業務単位で、どの規格の要求事項(条項)が該当するかを明確にすることを指す。

 プロセスの明確化及び、組織への適用とは(加藤氏がボードに書いた図)
0811proces
 
0812zu1_s明確になったユニットプロセスのインプとアウトプットの関係と、各々のユニットプロセスの相互関係を明確にし、ネットワークの基本構成を明らかにするのが b)項です。(右の例図参照)

日本の一部のコンサル会社が指導している「品質保証体系図を作成する」こととは、全く別のこと言っており、品質保証体系図を作成しただけでは、必要なプロセス及び、それらの組織への適用を明確にしたことにはならない。

(4)8.2.3プロセスの監視及び測定
 「8.2.3プロセスの監視及び測定」は、「4.1 c) これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要は判断基準及び方法を明確にする。」を受けている。
4.1 c) で定めた「・・・効果的であることを確認するための判断基準及び方法」に従ってプロセスを監視及び測定すればよい。
 「プロセスの監視及び測定」の意味が分からないという質問がよくあるそうであるが、このような組織では品質マネジメントシステムの構築という意味がよくわかっていない恐れがある。
なお、2008年度版では、監視・測定の対象プロセスは製品実現以外にもあるので「製品の適合性保証のために」という字句が削除された。また、プロセスの監視・測定はどの程度行えばよいかについての注釈も追加された。

 弊事務所の参考ブログ:ISO9001 8.2.3 プロセスの監視及び測定

2. アウトソースの管理
 この部分は、別にTC176/SC2より発行されていた「N630/アウトソースされたプロセスの管理に関する指針」を注釈に取り込んだことである。
 4.1 アウトソースの管理は 7.4 購買で対応する。この内容をどこまで実施するかは
 ① プロセスの影響の可能性
 ② プロセスの関与の程度
 ③ 管理を達成する能力
により組織自身が決定する。
詳細内容はISO TC/176/SC2 ホームページ「 Guidance on Outsourced Processes」を参照してください。

3. プロセスの妥当性確認
 「7.5.2プロセスの妥当性確認」はISO9001:1996の特殊工程の管理と同じ、と捉えられ適用除外をしている組織が多いようである。
プロセスの妥当性確認と特殊工程の管理とは同じではない。
ここで言う妥当性確認とは、新しい仕事をやる前に大丈夫か確認することを言っている。
サービスの場合は、殆どこれが該当する。製造業で「製造及びサービス提供の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視又は測定で検証することが不可能」に該当しないのは、製品を全数検査で選別している場合しかない。
抜き取り検査しかしていない場合は、事前にプロセスの能力を確認(妥当性確認)して、このような作り方で大丈夫であると判断する必要がある。
「製品が使用された後でしか不具合が顕在化しないプロセス」には、新しい製造ラインを編成し製造を始める場合や今までやったことない工法で製造する場合で、結果が出るのに時間がかかる場合も入る。
なお、製造ラインをズーと前に作って今も同じ作り方をしており今さら・・、という場合は、e)妥当性の再確認 だけをやればよい。

4. 法規制の解釈
 審査員によっては法規制の範囲をどんどん広げてくる場合がある。2008年版では規格要求事項の中で法規制を適用する範囲を明確にした。
数か所に法規制に関する記載があるが、適用される範囲は基本的に「製品に適用される」という範囲である。
具体的内容は、条項ごとに字句修正又は注釈でその範囲が記載されている。

5. その他細かい点(注記の追加)

 5.5.2 外部の人(例えばコンサルタント)は管理責任者になれない。
 6.2.2 教育訓練をすることを要求しているのではなく、必要な力量を確保することを要求する
 6.3  インフラに情報システムが入る。
 7.3.1 設計開発のレビュー・検証・妥当性確認は個々にやっても、組み合わせでやっても良い。
 7.3.3 設計開発にアウトプットの「製品の保存」が追加になった。
 7.5.4 顧客所有物には個人情報も含める。
 8.2.1 顧客満足の情報源の例が記載された。

ISO9004の扱いについて
 今回の改定では、ISO9004の位置づけはconsist pair(整合性のある一対の規格)ではなくなった。
ISO9004は、ISO9001よりさらに上のレベル(米国のマルコムボールドリッチ賞、日本の経営品質賞などのエクセレントモデル)を目指す組織への指針に変わる。
具体的には飯塚先生が中心になって作成されて日本のJIS Q Q0005/0006 を参照規格として改定作業が行われていており、2009年9月ころに発行となる見込みである。

なお、日本規格協会より品質マネジメントシステム日本国内委員会監修による解説本が発行されている。

2/22 追記
 関連ブロク
  「ISO9001:2008年版への移行」
  ISO9001 8.2.3 プロセスの監視及び測定
  ISO9001の要求条項の適用除外について

 「ISO9001:2008要求事項の解説」 「ISO9001新旧規格の対照と解説」
           

|

« 意識改革の進め方 | トップページ | 現状打破・経営革新&課題達成型QCストーリー »

i ISO9001 」カテゴリの記事

コメント

ISO9001:2008年版への移行「内部監査」について

このブログの発行者”がまがえる”こと西村経営支援事務所です。

内部監査について、認定機関は登録組織に対して有効な監査を実施していること。外部機関の研修を受けることまでは要求していませんが、組織内で勉強会を開催することを推奨しています。
弊事務所のISO9001内部監査員養成カリキュラムの中で、規格要求事項の解説の時間(半日間)に、既に2000年版で認定済の内部監査員の方が一緒に参加いただくことで勉強会とすることができます。
また、組織にとって有効な監査を行うためには、規格条項に基づく逐条監査からプロセスアプローチに基づく監査に移行することが望ましい。
弊事務所では、このような研修を組織ごとに出張形式で行っており、これまでに10社近くに事業所様のお手伝いをして、ご好評いただいています。
詳しくは、下記「内部監査員養成コース」のページをご覧ください。

http://www.nsweb.biz/audit/audit.htm

投稿: がまがえる | 2009.05.25 13:38

この記事へのコメントは終了しました。

« 意識改革の進め方 | トップページ | 現状打破・経営革新&課題達成型QCストーリー »