戦略的CSR
- 副題 「影響を及ぼすことができる環境側面」の発展型 -
「ISO14001認証維持の費用対効果の検証」において、「本社が中心となって、製品開発や販売などの経営戦略にのっとって環境対策を立案する。」という会社が増えつつあるというお話をしました。
これはISO14001規格に当て嵌めてみると、多くの場合「影響を及ぼすことができる環境側面」の発展型になると思います。
「経営との一体化」といっても、どのようにしたらよいか、私自身明確なイメージがわいてきませんでした。
最近、 競争戦略の第一人者、米ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏の「競争優位のCSR戦略」とダニエルC・エスティ&アンドリューS・ウィンストン筆「GREEN to GOLD」を読みました。
この本の中では、その手順がかなり詳しく紹介されています。
「競争優位のCSR戦略」はハーバードビジネスレビュー誌の2006年12月号に掲載され、2006年度のマッキンゼー論文賞を受賞した。日本語訳は2008年1月発行されています。
これまでのCSRは、社会貢献という名目で企業にとって都合のよい部分のみを公開している例が多く不祥事の発覚が絶えない。これでは何のためのCSR活動か分からない。
「競争優位のCSR戦略」では、このような事業活動とは別に社会からの要請を受けて行う従来のCSR活動を「受動的CSR」と位置づけている。そして、受動的CSR からさらに進み、社会問題と事業活動とを結びつけて、事業活動を通して社会問題の解決に能動的に取り組むCSR活動を「戦略的CSR」と名づけている。企業は「戦略的CSR」によって持続可能な競争優位を創り出すことができるとしている。
詳細はこの本を読んでいただくこととして、簡単にその手順を紹介します。
企業と社会との接点を探し、対応すべき社会問題を選ぶ。
企業と社会の相互依存関係を分析する。
1. バリューチェーンのチャートを用いて「バリューチューが社会に及ぼす影響」をマッピングする。
これにより、業務上の問題点とチャンスについて棚卸しする。これらは調査し、優先順位を明らかにして取り組む項目を決める。一般的な意味ではバリューチェーンが社会にマイナスの影響を及ぼさないように努めるべきである。
図1バリューチェーンが社会に影響を及ぼす影響
上図はクリックすると拡大します。
「GREEN to GOLD」には、この図と同じ趣旨で「AUDIO分析」という方法が紹介されている。環境問題に絞った場合、こちらの方がわかりやすいかも知れません。
⇒ 「AUDIO分析」(「GREEN to GOLD」108ページ抜粋)
2. ダイヤモンド・モデルで競争関係を確認し競争優位の分野を選択する。
効果的なCSR活動を企画するには、バリューチェーンが社会に及ぼす影響を知るだけではなく、自社の競争環境における社会的側面を理解する必要がある。つまり、生産性を向上させる能力、戦略を遂行する能力を左右する「外から内への影響」である。これを把握するには、事業領域の諸条件、たとえば輸送インフラや規制の公正な運用などが自社の競争力にどのように影響するかを示すダイヤモンドモデルを使うとよい。
図2 社会が競争力に及ぼす影響
図2の「社会が競争力に及ぼす影響」の四分野すべてに取り組むことは難しい。従って、競争戦略上、最大の価値をもたらす分野を選択することが課題となる。
これらのツールによって、社会の競争力を高める共通の価値を最大化するようなす社会活動が一つないし二つ選び出される。
ここで、マイケル・ピーター氏は、企業に影響を与える社会問題を三種類に大別している。
図3 社会問題の分類
これらの社会問題の対応には、従来型の「受動的CSR」と呼べるものと「戦略的CSR」と呼べるのもがある。
図4 受動的CSRから戦略的CSRへ
CSR活動は、社会的価値と経済的価値の実現において地域社会の期待を上回るものではならない。
「周囲への迷惑を減らす」というレベルにとどまることなく、「社会をよくすることで戦略を強化する」というレベルを目指すべきであるとしている。
具体的には、トヨタ自動車がハイブリッド技術の開発により「競争優位」と「環境保護」を両立させた例。
ネスレが途上国の小規模農家と直接契約し、コーヒー、ココアといった主原料を調達、その過程で技術移転により、現地の医療の改善、教育の向上、経済発展といった成果を生み出した例が紹介されている。
「GREEN to GOLD」の方は、マイケル・ポーター氏が絶賛というPR文字を見て読んでみました。
こちらの方は、戦略立案というよりは、環境経営を行うに当たっての手法をより専門的・具体的に紹介しています。
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コメント
ことしのノーベル賞候補の問題です。
マルテンサイト アダマンタン 境界潤滑 熱力学 状態図 ラマン分光
の技術用語が含まれる理論とは?
投稿: ラプラス | 2020.06.15 03:16
それはダイセルリサーチセンターの久保田邦親博士(工学)のCCSCモデルでしょう。自動車の低フリクション化による環境負荷低減に大いに期待されるところです。
投稿: マルテンサイト九大OB | 2020.06.16 03:09