私の喜びがあなたの喜び
今日の話はISO9001の顧客満足でもあり、経営品質の顧客志向に関する話でもあります。
日本経営品質協議会のアセッサーマガジン2007年夏号に、「Dr.テラ(財団法人社会経済生産性本部 主席コンサルタント)のアタマの本棚」にベッツィー・サンダースの著書の紹介と、その後「お客様の喜びは私の喜び」から「私の喜びがあなたの喜び」に考えが変わって行った経緯が述べられていた。
私はまだ、この本を読んでいかかったので、早速ベッツィー・サンダース筆「お客様の喜びは私の喜び」と「サービスが伝説になる時」を買って読んでみた。
内容は、「サーバントリーダーシップ」「エンパワーメント」「ビジョンの共有」「トップがビジョンの達成を日頃の行動で現す」などサービス業の経営品質の指南書そのものです。
サービス業では、商品を売っているのではなく喜びを得っているのだから、現場第一線のスタッフがお客さんの気持ちをくみとりサービスすることが成功の秘訣なのだろう。
しかし、Dr.テラは、これをそのまま真似てもうまく行かないといっている。
---------------------------<ここから引用>-----------------------------
・・・・・「あなたの喜びが私の喜び」と本音でいえるような人間になりたいという課題を持って自分自身のコンサルティングや研修に、CSの考え方を取り入れていきました。 そうこうしているうちに、「とにかくお客様のため」と言っているだけでは、壁につきあたるという現実に直面しました。
一つ目は、現場の社員がどんなに「お客様に笑顔をふりまこう、感謝の気持ちを持って接しよう」という態度で臨んでも、提供している製品やサービスの質に問題があれば、謝ってばかりの仕事で、お客様から真の満足は得られないという事でした。
二つ目は、お客様の「言いなりになる」事が顧客満足だと勘違いして、無理難題を受けてきて、結果としてプロセスが混乱し納期遅れになってしまうケ一スがある事でした。
いずれも、結果として、現場社員の疲労度が高まり、「楽しくない仕事」で埋め尽くされるようになってしまったのです。「あなたの喜びが私の喜び」という言葉を盲目的に実行すると、それは「私の苦しみ」につながるという事を実感しました。
さらに、こうしたケースをクリアしたとしても、まだ問題が残ります。
三つ目は、お客様のニーズを優先して、それぞれごとにカスタマイズすると、企画・生産効率が落ちていくということです。もちろん、それだけの高価格が取れればよいのですが、そうは問屋がおろしません。ロットの小さな仕事が増えて日常業務に時間がとられ、次世代の企画・開発に割り当てる資源が不足してしまいがちです。
そして四つ目は、今、目の前のお客様だけにマッチする企画・生産・提供体制をとっていると、それに最適の組織や思考様式になってしまい、大きな市場変化に対応できないというジレンマです。こちらは、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき―」(増補改訂版、2001年、翔泳社刊)に詳しく解説されています。
---------------------------<引用終わり>-----------------------------
そこで成功するためには、「お客様の喜びは私の喜び」から「私の喜びがあなたの喜び」に変らなければならない。
これが成功するためには、お客様の事をよく知らなければならない。
その方策として、一つは、自分自身が第一のお客様であるパターン。それも、マニアの世界に閉じこもるのではなく、将来一定規模の市場になった場合の、市場の代表者となるパターンです。
もう一つのパターンは、自分自身が、お客様にとっての憧れになること。「あんな人になりたい」「あんな会社になりたい」「あんな会社だから、あそこから買おう」。いかに、自分自身が魅力的になるかという事が求められています。
結果として「私の喜びがあなたの喜びとなるような私になろう」という事だ、といっておられます。
以上はサービス業の話ですが製造業でも似たような話があります。
最近のソニーさんは変わったと思いますが、数年前ソニーの経営不振の理由は、以前は井深氏や盛田氏がお客さんの趣向を肌で感じ取りそれを商品化していた。それが、旧経営陣が退陣後、MBAの経営スタッフが、経営分析、CS調査などのデータ分析を元に経営方針を決めるようになった。
「しかし、集められたデータは過去のデータであって、顧客の心に潜む潜在的なニーズまではつかめなかった」ということが一つの原因である、と指摘されていた。
要するに、顧客の潜在的なニーズを直にくみとって、自分が得意分野でプロセスを作り込んでいくことが製造業での「私の喜びがあなたの喜び」で、これが成功の秘訣ではないだろうか。
ところで、私は最近20人~30人程度の下請けのものづくり事業者のISO9001のお手伝いする機会が増えてきた。
これら会社での「顧客満足とは何だろうか?」と疑問に思うことがある。
ISO9001では、顧客満足について2箇所で要求事項が規定さている
7.2.1 製品に関する要求事項の明確化
・・製品に関連する顧客の顕在、潜在の要求事項を明確にすること。
8.2.1 顧客満足
・・組織は、顧客要求事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように受け止めているかについての情報を監視すること
これらの下請け工場に共通していることは、親工場の暗黙の要求事項は
「自分のところでできない多品種少量生産であったり、人出のかかる仕事を安く安定した品質でやって欲しい。そして、親工場の生産量が減れば発注を止めるか、発注量を激減させたいが応じて欲しい。」
そういう状況で、親工場の「言いなりになる」ことが顧客満足だと理解していると、結果は大変なことになる。
ですから、私は顧客満足とは、親工場のこのような暗黙の要求事項を素直に受け取り、自社がどう展開していくか対応策を決定することなのだ、と解説している。
具体的には、顧客の立場に立ってSWOT分析をやってみて自社の強みを強化し弱みを改善して、イザというときに困らないようにする。
そのことが、自分のためでもあり、顧客のためでもある。
即ち「私の喜びがあなたの喜び」になるのだと思うのです。
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