学習する組織 その9 システム原型の紹介
先のブログの続きとして、逆効果の応急処置、成長の限界、問題の転化、共有地の悲劇、 予期せぬ敵対関係 の5つのシステム原型を順番に紹介していきます。
逆効果の応急処置
軋んでいる車輪がある。機械のことをまったく知らない人が、いますぐ油をもってこいといわれたとしよう。慌てた彼は誤って水の入った缶をつかみ車輪にかけてしまった。すると、軋む音は消えたので彼はほっと胸をなでおろした。しかし、そのうちに、前よりもひどい軋み音が聞こえるようになった。そこで、また水の入った缶をかけると軋み音は消えたが、そんなことを繰り返しているうちに車輪は錆びて動かなくなってしまった。
私たちの会社の中でも起りうることですね。例えば、赤字になったのでスタッフを減らしコストを削減した。すると利益率は向上してきた。そんなことを繰り返してきているうちの職場での仕事のノウハウが失われ従業員の士気が下がって、また赤字になってしまった・・・
このような状況に対する戦略の例
■「意図せぬ結果」に対する認識を高め、メンタルモデルを隠さず話してもらう。
■応急処置の施す頻度と、一度に施す応急処置の数を少なくする。また、好ましくない結果を助長しないような応急処置がないか問いかける。
■枠組みを変えて根本的な問題に取り組む。
本当に手を打ちたいと考えている問題は何か。例えば、現在の問題が利益だとすれば、短期的に財政上の結果を出すことが最上の目標なのだろうか。それとも、長期的な視野にたって財務面で健全な状態を生み出すことなのだろうか。
成長の限界
成長があるところで限界に達するか衰退する。
例えば、QC活動が初期の頃に行われる努力は製品・サービス・プロセスなどにおいてかなりの改善をもたらす。それによって、QC活動の評判が高まり活動に勢いがつく。しかし、容易な変化が終わると、改善のレベルは横ばいになり、多くの人達の失望するところとなる。
次のレベルの改善は、より複雑で取り組みが難しい。組織内での幾つかの異なる部門との連携や経営幹部の態度が「制約要因」となる。
このような状況に対する戦略の例
■過去にうまくいった行動を機械的に繰り返さないよう注意しなければならない。
「拡張要因」に更なる資源を積み込もうとする誘惑を抑えて、「平衡循環」に目を向けるようととめること。
■メンタルモデルを確認する。そのそも、成長を組織の基本理念とすべきか?
■<成長の限界>のシナリオのおいて真のレバリッジ(てこ)は、まだ自由に使える時間や資源を持っている成長の初期の段階にある。その時点で、今はまだ小さくても、将来は大きな力となる制限要因を予測し、次の拡張の波に組み込んで効果的な取り組み枠組み行うこと。
問題の転化
生まれながらにして障害のある子どもに対して、かわいさの余り親は代わりに子どもの望むことはなんでもしてあげ過保護に育てる。しかし、これは子どもの自立心を失うという代償を生む。
企業のなかでも同じようなことがある。新製品開発プロジェクトにおいて遅れなどの危機がおとづれると「緊急対策リーダー」には、新製品の発売にこぎつけるために「必要なことは何でもしてもよい」と言う絶大な権限が与えられ、通常の障害物や手続きは簡単に取り除かれる。製品は予定通り発売され、緊急対策リーダーは「今日の英雄」としてもてはやされる。
一方、一部の人達が、より根本的な解決策を提案した。しかし、この戦略は時間がかかり注目度も低いため目先の影響力は小さい。
次第に会社は、根本的な長期的変革を犠牲にしてまで、「英雄を生み出す」危機的な状況に依存するようになる。
このような状況に対する戦略の例
■<問題の転化>の状況を理解するときは、<逆効果の応急処置>と同じように始めること。解決しようとした問題の症状は何か、どんな「意図せぬ結果」があり、その根本原因にどのような影響を及ぼしたか?
■「システム原型」を探求の道具として使ってみる。しばしば、人は自分がいいと思うことこそが「正しい」解決策だと考え、それを問題解決策のところに書き込みたいという誘惑に駆られる。
このような先入観を排除するには対話によって問題の根本原因となるメンタルモデルや、仮説を明らかにしていく。
■長期的な解決策<根本原因解決策>を強化すること。
一方で、「応急処置」への依存度を軽減するためにできることをする。例えば、根本原因解決策を外部からの支援によって補うことも考えられるかも知れない。
共有地の悲劇
共有資源の制限を無視して活動を増大させると資源も活動の収穫も共に衰退する。
これは、環境問題で資源の消費・地球温暖化のシステムの例としてよく使われることがありすね。
私の2005年1月のブロク「品質経営と環境経営はどう違うか」の中で共有地の悲劇の出所を紹介していますので、そちらをご覧になってください。
このような状況に対する戦略の例
■状況に応じて3つの形のレバリッジ(てこ)が考えられる。
ひとつは、関係者による活動の総体がどんな犠牲を生んでいるかを全員に認識させることが有効な場合がある。より明確に問題を意識するにようになるにつれて、自己利益のみを追求する行動を差し控えるようになるだろう。
2つ目は、多くの環境関連の状況がそうであるように、共有資源が時間をかけて再び補充されるまで、それを閉鎖して利用できないようにしなければならない場合がある。
3つ目は、共有資源を直接補充したり、共有資源を制限している制約条件を取り除いたりすることが可能な場合がある。
■いづれの場合も、共有資源を守るためにルールを設けて、何らかの共通目標を持つことを義務付ける必要がある。
予期せぬ敵対関係
相手のことを考えずに成長策をとると競合関係や敵対関係が高まる。
ワークブックでは、世界最大の消費者製品のメーカーP&G社と、世界最大の小売チェーンのウォルマートが、1980年代に自分の利益を優先する販売政策をとったために、予期せぬ敵対関係に陥った例を紹介している(下図)。
このような状況に対する戦略の例
■組織の中の自分自身の成果を高めるために是正措置を無理押ししないこと。その代わりに自分のパートナーの基本的なニーズを理解するように努め、自分が意図せぬうちにそれを妨げている可能性を頭において、どうすれば相手を支援することができるかを考えてみること。
P&G社とウォルマートの例では、自分たちが築いてきた構造を互いに何とか理解しようとして、関係者を一同に集めて話し合いを行なったことがレバリッジ(てこ)となった。
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