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2004.05.23

エンパワーメントの矛盾と幻想

 日本経営品質協議会のアセスメント基準書によると、エンパワーメントとは「組織の戦略目標が社員に理解された上で、現場に大きな権限が委譲された状態を指します。激しい経営環境の変化に対し迅速で柔軟な経営を実現するため、現場が主体的かつ迅速な意思決定を促すしくみです。社員の自立によるやる気を通じて、組織の生産性向上に結びつく側面を持つとともに社員の無力感を取り除き、モチベーションを高める効果があります」とある。
実際、経営品質の向上を目指す企業は勿論のこと、ISO9000:2000年版でも、表現は明確でないが、要求事項の随所にその考え方が入っており、最近の日本における経営の1つのトレンドとなっている。
ところが、自分が、コンサルティングで色々の企業様にお伺いしていると、経営者の方々は「うちの社員には、もっと自主的に提案し行動するようになってほしい」といったエンパワーメントを求めるお話をされるが、実際の決定権限は、認めておらず、本心はそうなってほしくないのではないかと思われることに出くわす。
これは、日本に限らずその源流であるアメリカでも同じことらしい。
 最近読んだハーバード・ビジネス・レビュー・ブック「エンパワーメントの幻想と現実」(クリス・アージリス筆)の中に、エンパワーメントに対する経営者側と従業員側の複雑な心理が紹介されている。
エンパワーメントに対する極端な例として、東ドイツに逸話がある。
ーーーーーここから引用ーーーーー
外因的コミットメント(トップダウンの指示にもとづいて仕事を進めるという意味)というのは、多くの従業員の場合、生き残りのための心理的よりどころ、すなわち組織に適応し、身を守っていくための行動一形式となっている。彼らは、これを処世術とすることによって、たいがいの環境で生き延びていけることになる。
その実態は、旧東ドイツで現在起こっている”ドラマ”で証明できる。ベルリンの壁が崩壊すると共に、東ドイツの労働者のそれまでの働き方がガラリと変わることになった。人部分の労働者はそれまで、上層部からの指示に従うことによって自らの人生を全うすることができると信じていた、つまり、東ドイツの工場はそれまでの40年間、ほとんど例外なく中央からの指令を受け、その指示に従って生産活動を維持していた。もし労働者のだれかが、自らの"運命"を自らの手で切り開くために、そのために必要な権限を与えてほしいと言い出したりすれば、彼は自分の生命をすら危うくしたことだろう。その結果、東ドイツの労働者たちは、自分たちに求められる仕事のうち最低レベルのものを成し遂げれば任務は完了という"労働倫理"を打ち立てたのである。
共産主義政権が消滅した後、私は旧西ドイツの経営トップたちと何度かディスカッションの機会を持ったが、彼らは口々に旧東ドイツ労働者の覇気のなさ、取り組み意欲の乏しさを訴え、驚きと困惑の声を上げた。そして、外因的コミットメントに浸り切り、そのルールに従って何十年も生きてきた人々が、内因的コミットメント(自分自身で仕事のやり方を創造し決定実施すると言う意味)と正面から向き合い、これを新たなルールとして受け入れるというのは、彼らにとって肝をつぶすような、あるいは恐怖の出来事であるようだと言い、そうした事態は、自分たちの理解を絶するものだと嘆いた。
ーーーーーここから引用ーーーーー
 これは、東ドイツだけでなく日本においてもワンマン社長に率いる殆どの中小企業が同様の状況ではないかと思われる。
そのような会社では、早急にエンパワーメントを進めることは失敗につながる。トップダウンによる業務管理の中に、エンパワーメントを織り込んでいくというのが現実的である。そして、時間をかけてゆっくりとエンパワーメントを拡大するというプロセスをとらなければならない。
 結局のところ、エンパワーメントというのは、経営の理想であって完全なエンパワーメントはありえない。そしてトップダウンによる業務管理を行うか、社員のエンパワーメントによる業務管理は、業態やこれまでの組織文化によって違ってくることになると思う。

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